短編ブログ小説【暗闇の中で僕は泣いた】part2
2016/08/17
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「ねぇ……本当にいいの?無理しなくてもいいんだよ?私の言葉は大袈裟なのかもしれないけれど」
「あの映画は見たいんだ」
回想はまた現実に戻った。僕は無表情で車を運転している。
「だってあの映画って……」
「沙希が言ってくれたように主人公が事故で死んじゃうんだろ?知ってるよ。人気がある映画だから僕にだって分かるって」
「じゃぁ……絶対見ないほうがいいよ!」
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「大丈夫だよ。沙希はポップコーンのサイズはスモールでいいの?僕はラージサイズを食べる予定。小腹が空いたよ」
「……もう」
沙希の言うことも聞かずに僕は映画館へと向かった。何故か鋭く柔らかい棘が僕の心に刺さっていた。
"彼女"の事を忘れなければいけなかった。今をもっと愛せるように。
僕の手をぎゅっと握りしめてくれる沙希を愛するためにも忘れなければいけなかったんだ。
自宅から車で数十分も走れば約束した映画館はあった。
時折あった2人の無言は答えを出さず、僕と沙希がここにいるという事実だけが風景を映した。
そして、映画館を左手に僕が運転してきた車を止めた――
「本当に来ちゃったね」
「沙希は大袈裟なんだよ」
僕は大袈裟な事だと自分の心の中で自分にも言った。
なぜなら沙希と付き合いだしてからずっとこの2年間はどこの映画館にも来たことがなかったのだから。
「そうよ。大袈裟なことよ。だって翔ちゃんと映画館に来たことなかったんだから」
「そうだよね。じゃあ、あれから2年経ったんだね。いやもっとかな?分からないや。別にそんな事いいんだけど」
「……翔ちゃん大丈夫?」
車からずっとずっと僕達は離れた。見たかった映画を見るために。でもどうして今日だったのだろうと彼女は思ったに違いない。
何が切っ掛けでこの2年間の月日を経ての今日だったのだろうかと――
僕と沙希は映画館の入り口へ、そして中へと入った。その時だった。
(私も映画大好きなんだよ! なんか非現実的な感じがしない? 後はポップコーンの香りとか大好き)
いつかの彼女の声が聞こえた――
(そうなんだ。僕も同じだよ。菜々美とは趣味があうかもね。前から思っていたんだけどね)
(趣味あうのかな?そんなこと言って親近感を持たせたつもり?私を惚れさそうとしてる?そんなに簡単な事じゃないからね)
僕は現実の世界で目を潤ませて微笑んだ。目を閉じればまた菜々美が現れたのだ。
「翔ちゃんどうしたの?」
「え?……ああ。何が?」
「だって……私……」
「大丈夫だって。僕がチケット買ってくるからポップコーン買っといてよ。飲み物はコーラがいいな」
僕は財布を沙希に預けた。
「私に財布を渡したらチケットどうやって買うのよ。バカ!」
「ごめん、少し焦った。チケット代だけもらっておくよ。じゃあ後で」
「はい。私はここで待ってるからね」
僕は1人でチケット売り場へと向かった。2人で買いに行ってもよかったのだが沙希と一緒に行くことを懸念した。
辺りは少し薄暗く、空間は眠る少し前の光加減だった――
(私もチケット売り場まで付いてくよ)
(前にも言ったけどチケットは僕が1人で買いに行ってくるからここで待ってて)
(なんで?けち!)
僕はチケット売り場へとやってきた。この胸をくすぐる空間が大好きだった。
沙希との約束通り【永遠の愛~君の事を忘れない~】という映画のチケットを2枚買った。
指定席はなく、いつものことで真ん中のグループの通路側を僕は選んだ。
「……さて」
僕は沙希のいるところへと戻った。遠くに沙希がいたのを確認出来た。携帯を1人でいじっている姿が見えた。
愛しい沙希の姿――
非現実的な空間が彼女を更に特別なものにした。僕はまた恋をしたようだ。
愛は年月の長さじゃない事をここでも知った気がした。
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短編ブログ小説【暗闇の中で僕は泣いた】part3
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