はっちのバーカブログ

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はっちの物語

短編ブログ小説【暗闇の中で僕は泣いた】part3

2016/08/18


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いつまでも好きでいること、愛せること、何気ない彼女の姿、僕は誇りに思えた。

 

自分の顔がいつもよりも数度温度が上がったように感じた。

 

「沙希お待たせ!」

 

そう言うと見上げた沙希が「待ってないよ。上映前にトイレに行ってきていいかな?」と僕に言った。

 

目には見えていない情景が僕の心に映る。こんな病的なことを沙希には言えなかった。

 

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それは誰にも言えなかった。この事象をデジャブーだと言う人もいる。

 

どこかで見たことがあるといった錯覚である。でも僕は思う。

 

錯覚ではなく実際にあったことなんだと。またはそれに近い体験を過去にしていたんだと。

 

僕は何故に今日を選んだのだろうか。沙希も不思議がっていたのだ。

 

なんとなく椅子に座り周りを見渡して時間を過ごした。そのうちに沙希がトイレから戻ってきた。

 

「じゃあ、行こっか。ちゃんと上映前に入ろうよ。大丈夫でしょ?」

 

「うん。分かった」

 

僕達は手を繋いだ。さっき手を洗ったせいか僕と沙希の手は少しだけ湿っていた。

 

「そういえばどうしてチケットを1人で買いにいこうとしたの?普通は一緒に行くもんだよ。前にも聞いたことがあるけどそれは翔ちゃんのこだわり?」

 

「理由?……理由か」

 

「理由があるの?」

 

「とりあえず映画を見終わった後にそれは言うよ。楽しみにしといて」

 

僕達は足を進めた。空間は薄闇からさらに濃くなった。足を踏み入れた場所には大きなスクリーンがある。

 

僕が指定した席へと沙希と2人で座り、そっと前を見た。ポップコーンとコーラを椅子の横に置いて。

 

「本当に翔ちゃんと映画見にきたんだね。なんか本当に変な気分」

 

「そう? これからもっと一緒に見に来よう。映画はお互い好きだもんね」

 

僕は頬を窪ませて笑った。

 

「ねぇ、どうして今日だったの? あれだけ映画見に行くの嫌がってたのに。今日に何か意味があるのかしら」

 

「特別、今日って決めていたんじゃないよ。なんとなく……そう。なんとなくだよ。自然な感じ」

 

続々とお客が入ってきた。満員になりそうな勢いだった。

 

みんな泣きに来たんだろうかと心の中で呟いた気がする。さすがは人気のある映画だと思った。

 

現実、ここには僕と沙希がいた。静かに僕はポップコーンを食べて、劇場予告前の案内映像を見ていた。

 

「楽しみだね。翔ちゃんも楽しみにしてたもんね。この映画は本当に泣ける映画らしいから」

 

「僕はけっこう泣き虫だから絶対泣くと思うよ。泣いても笑わないでね」

 

「泣き虫は知ってるもん。面白いもんね?翔ちゃんは」

 

静かにまた時間が流れた。薄闇の中そっと僕はまた目を閉じた。かすかに感じるポップコーンの味と香り、僕の飲み物はコーラだ。

 

視線を前に向けた。まもなく上映が始まる頃だった。一気に照明が落ちた。暗闇は人の想像を美化する力がある。

 

僕はまたいつかの"2人"を見てしまった――

 

(楽しみね!)

 

(うん。初めて2人で映画館に来たから嬉しくてさ! でも緊張してるからどうかな?)

 

(大丈夫よ。映画は見てるだけだから話しはしなくても大丈夫。ずっと前を見てればいいから)

 

僕と沙希が座っている席の2つ前の席に、あの日の僕と菜々美がいた。

 

(……まさかね)

 

(どうしたの?)

 

(私と出会った時のこと覚えてる?)

 

(当たり前じゃないか。覚えてるよ。本当に僕はびっくりしたんだから。あれが運命なら僕はそれでいいよ。こんな出会いは二度とないと思う。これからもずっと)

 

憎い運命は昨日のようにも感じた。菜々美はもうこの世にはいない。彼女はシャボン玉のようにこの世界から消えたのだから――

 

(ずっと一緒にいようね。翔ちゃん)

 

(ありがとう。本当に僕は幸せだよ)

 

2人の笑い声は近くの人に迷惑をかけたこと。まだ子供だった僕達。

 

時は数年だけれど僕はあの頃よりも少しだけ時間だけが大人になったんだ。

 

ポタポタと僕の頬に涙が伝った。僕は泣いてしまった。暗闇の中で。手を伸ばしても掴めない温もりを見てしまったからだ。

 

「……どうしたの?」

 

沙希が僕の異変に気がついて声をかけてきた。それは僕が腕で涙をぬぐったせいだった。

 

「大丈夫だよ。ポップコーンの塩が目に入ったんだ。ごめん。本当に痛い……」

 

「……そっか。あまり目はこすらないほうがいいよ?」

 

間もなく本編が始まる頃だった。

 

(上映中、私のことチラチラ見ないでね。約束して。私は映画に集中したいタイプだから)

 

(そうなんだ。僕はまたそれとは逆だ。大好きな菜々美をたまにチラ見するからね。いや、凝視したい。いいでしょ?)

 

(やめてよ!バカ!)

 

心臓が痛くなった。僕はその痛みを感じながら隣にいる沙希の体に腕を当てた。

 

生きているという温かさ、そして優しさ。僕の隣にいる人が今愛する人なんだと。

 

暗闇の中で泣いた僕はまた自分をバカだと感じた。本当にバカ野郎だった。

 

こんな幻に涙して、一体何になるのだろうと。気持ちの悪い男だと思う。

 

こんなバカな事をやめないといつまでたっても彼女を幸せになんて出来るはずもなかった。

 

あれだけ拒んでいた映画館に来て僕は確信した。なにも映画館でしか菜々美に会えない事もなかったのだ。

 

僕達が生きた世界に思い出があった――

 

それに伴った事実だけが僕に幻を見せていたのだ。

 

何も泣くことはない。そっと笑おう。天国にいる菜々美に元気な僕の姿を見せる為に。

 

時間が経ち映画が終わるころには僕は寝ていた。楽しみにしていた映画だったのに――

 

(翔ちゃん寝てたの?バカ! ゃんと映画見ようよ。楽しみにしてたのに)

 

「翔ちゃん?楽しみにしてたのに寝てたの?見てるかと思ってた。バカ」

 

「……いや。見てたよ!」

 

僕達は席を立った。出口へと向かった。

 

パート4

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短編ブログ小説【暗闇の中で僕は泣いた】part4

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