はっちのバーカブログ

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はっちの物語

短編ブログ小説【暗闇の中で僕は泣いた】part4


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「本当にいい映画だった。最高に泣けたよ。友達に絶対すすめよう!」

 

沙希が僕に泣いた顔のまま笑顔を見せてくれた。出口を出る頃には僕達はいつものように手を繋いだ。

 

「……あのね」

 

「どうしたの?」

 

「前にも話したことあるよね? 菜々美の事なんだけど」

 

「……うん」

 

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たくさんのお客さんが僕達を抜いていった。歩く速度を落とした。

 

「確か……初めて2人で映画を見に来た日に僕達は手を繋いだんだ。それも初めての事だった」

 

「うん」

 

「今日が……その日だったんだよ。嘘ついてごめんね」

 

「嘘くらいついていいよ。私は翔ちゃんの事は理解したいから。それが異性のことであっても」

 

「ありがとう。それで沙希に1つ聞きたいことがあるんだけど聞いていいかな?」

 

「うん、いいよ。何?」

 

「僕の手って……うん。僕の手って温かいかな?」

 

それが聞きたかった。それだけを聞きたかった――

 

「……翔ちゃんの手?翔ちゃんの手はいつも温かいよ。逆に質問するけれど私の手は温かい?」

 

「うん。"ちゃんと"温かいよ。すっごく温かい」

 

「そっか。ありがとう!」

 

ゆっくりと僕達は歩き出した。

 

「僕は過去に縛られるのは好きじゃないんだ。だけど、どうしても忘れることが出来なかった」

 

「それは仕方がないって」

 

「菜々美もこんな映画を見てあのとき泣いてた。なんか思い出の強い場所にくると薄い映像がふと頭に浮かぶんだ」

 

「大丈夫よ。翔ちゃんが忘れる必要はないよ。忘れちゃいけないことだってこの世にはあるんだから。私は平気。本当に大丈夫だから」

 

「ありがとう。本当にありがとう」

 

僕達は映画館から出た。懐かしい風が僕達を包んだ。

 

「色々あったけど翔ちゃんがそう言ってくれて嬉しいよ。心配してたからね。これからまた映画見に行ってくれるんでしょ?」

 

「当たり前だよ。いっぱい映画を見にいこう。でも僕は寝る癖があるからな」

 

「ほら!やっぱりさっき寝てたんじゃん。映画見にきた意味がない」

 

「ごめんね」

 

帰りの時には雨が降っていた。雨の匂いは別れを連想させた。僕はいろんな別れを雨に流した。

 

「雨が降ってるね。早く家に帰ってすき焼きを食べよう。ものすごくお腹が空いてきたよ」

 

「こんな夜に大丈夫かな? 太る気がするんだけど。でもやっぱりそれがいいや」

 

「そういえば理由教えてもらってないよ?上映前に言ってたやつ」

 

「え?何が?」

 

「翔ちゃんが映画のチケットを1人で買いにいく理由」

 

「あぁ、それね!大した事じゃないよ。教えてあげようか?」

 

「うん」

 

僕は笑顔で言った。単純なその理由を――

 

「菜々美と出会ったんだ。そこで」

 

「出会った?」

 

「僕達は映画館で出会った。客と店員としてね。あのチケット売り場で僕は彼女に出会ったんだ」

 

「それが理由?」

 

理由といえば違ったのかもしれない。だけどそれを詳しく彼女に言う必要はなかった。家に帰る途中でまた沙希に言った。

 

「ありがとう」と――

 

何気ない生活に自分を感じた。それ以上に彼女を感じた。

 

肌で温もりを感じることで僕は愛するということをまた実感したのだ。

 

まるで沙希と見たこの映画のタイトルのように……僕は"忘れない"という事を心に刻んだ――

 

大好きだよ。

 

沙希――

 

         ―END―

 

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